将来は、現在の延長線じゃない。

これは2年程前になるが、日本経済新聞の「私の履歴書」に載った江崎 玲於奈氏の言葉である。
江崎 玲於奈(えさき れおな)氏は、ノーベル物理学賞を受賞した日本を代表する物理学者である。私のように電子工学を専攻した人間にとっては、彼の発明したトンネルダイオード(エサキダイオード)を知らない者はいないだろう・・。

彼は、記事の中で次のように言っている。

 私が学んだことは、真空管をいくら研究しても、改良してもトランジスタ
 生まれてこないということ・・

 ・・すなわち、われわれはともすれば、殊に安定した社会では、将来を現在の
 延長線上に捉えがちになる。

 しかし変革の時代には、今までにない革新的なものが誕生し、将来は創ら
 れるといえるのである。

 ここでは、創造力が決定的な役割を演ずることはいうまでもない。

世紀の大発明であるトンネルダイオードを誕生させた、若き日の江崎博士の言葉である。

江崎氏は、従来技術の模倣、延長では画期的なイノベーションは生まれないといっているのである。

Fujimoto 昨日のNHKテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、ホンダの燃料電池車開発のリーダー藤本 幸人 (ふじもと さちと)氏が紹介されていた。

昨今のエコブームで、ハイブリッド車や電気自動車が注目されているが、藤本氏は番組の中で「自分のクルマ作りへの思い」を次のように語っている。

 我々は、エコカーを作っているのではない。そんな基本に忠実な
 だけのクルマを作るのではなくて、乗っていてワクワク・ドキドキ
 する、時代をひっくり返すほどの、今までにないすべてを集めて
 生み出された、技術者達の思いや夢が形になったクルマづくり
 だと・・。

本田 宗一郎(ほんだ そういちろう)を、思い出させるような言葉である。ホンダのDNAを受け継いだ技術者が将来の夢に向かって日夜努力している姿を観て、かつての「物作り日本」を思い出した気がした。

私も、20数年間パッケージシステムの開発に従事してきた。その間、自分自身に言い聞かせ実践してきたことがある。

それは、他社との製品比較をしないということである。

営業部門からは、他社のこの機能がないから失注した・・ とか、この機能があれば売れます・・ といった意見もあったが、お客様の目線に立って本当に必要な機能は何か? を検討し実装するようにしていた。

競合他社の真似事では、自社の独自性を出すことは困難である。また、不要な機能が満載なシステムは、オーバースペックで反って使いづらいシステムになるからである。

ITの世界にも、前述の二人のような「創造力と想像力を物作りの原点」に据(す)えたエンジニアが沢山出てくることを期待したい。