聞き上手

先日、納品したシステムのクレーム処理のため、開発担当SEを連れてお客様を訪問した。

クレームの内容は、新システム導入後現場が運用について行けず混乱している。当初のシステム導入目的が達成されておらず、中途半端なシステムを納品された・・というものである。

このお客様では、システム導入前は翌月の生産計画を月初に立て、月中の計画変更はすべて手作業で行なわれていた。

新システムでは、月末の受注状況・製品在庫数・仕掛・生産能力から自動的に翌月の生産計画を立案する。計画も、従来のような製品(オーダー)単位ではなく、製品を構成する部品の生産まで展開し計画値が算出される仕組みである。

私は、お客様と担当SEの会話を一時間ほど脇で聞いていた。担当SEは、一生懸命新システムの機能のみを説明し、訪問の目的である「なぜ新システムが動かないのか?」を聞きだそうとしないのである。

一方的に話すSEの言葉に圧倒され、お客様も思っていることを話せない状況であった。お互いの思い・言い分が微妙に食い違い、噛み合っていないのである。

それを聞いていた私は、5分ほど会議を中断してもらい、別室で担当SEを注意した。言ったことは、次の2点である。

 ?あなたは、喋り過ぎ! あれでは、お客様が閉口してしまい「思っていることを聞き出せない」
 ?言葉ではなく、ホワイトボードに書きながら説明すること。

会議は再開され、ボードに具体的な数字を書きながら現状システムの説明を行なうと、今までとは違ってお客様からもいろいろな質問・意見が出るようになり、双方のギャップが明確になってきた。

システム設計では、お客様の頭の中にある漠然とした「要求・目的」をいかに聞き出し、具体化していくかが重要である。SEの中には、持っている知識(技術)をひけらかす人間がいる。業務経験の豊富なSEの中には、過去の自分の経験を「正」として押しつけようとする者もいる。

SEの経験は、全体から見れば一握りに過ぎず、業務のやり方もお客様によって千差万別である。知識も自分自身のためにあるわけではなく、お客様のために生かされてこそ意味があると思う。

業務知識が豊富なSEは、自分の中で「常識」と決め付け文章や図を書こうとしない傾向がある。認識を一致させるために、ホワイトボードや紙に纏める事は非常に重要である。

この様にお客様の言葉に耳を傾け、それを纏める技術こそSEにとって重要なことである。