重大事故の影には無数の潜在リスクが・・

大阪市此花区のパチンコ店の放火殺人事件。4人が死亡、19人が重軽傷を負った傷ましい事件である。大阪勤務時代は、此花区に住んでいたので休日には、よくこの店の前を通っていた。

大きな事件・事故の後で必ず話題になるのが、事件・事故は回避できなかったか・・? ということである。

アメリカの技師ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(Herbert William Heinrich1886年〜1962年)は、労働災害の発生傾向に関する経験則を「ハインリッヒの法則」として発表している。

その内容は「1件の重大災害の背景には、29件の軽微な災害と300件の(ハッとした、ヒヤッとした)無傷の災害がある」というもので、「1:29:300の法則」とも呼ばれている。

彼の研究によると、さらにその背後には数千件の潜在的なリスク(=「不安全行動」「不安全状態」)が存在し、それらに対し予防措置を取ることにより、労働災害98%は防げるというものである。

重要なことは数字ではなく、ひとつの重大なトラブルの背景にはその数十倍の軽微なトラブルがあり、さらにその背後には無数の小さなトラブルがあるということである。

ハインリッヒの法則は、労災などの事故の防止だけでなく、ビジネスのさまざまな側面に応用されている。

例えば、クレーム管理。ある調査によると、企業にクレームを入れるのは不満を持った顧客のうちのわずか4%。1件のクレームの背景には24人の不満を持った顧客がおり、うち6人は深刻な問題を抱えているとのこと。
クレーム(=事故)、潜在的な不満(=潜在的リスク)と解釈すれば、この状態はハインリッヒの法則にそっくりである。

ITの世界でも、プロジェクトのリスク管理は非常に重要なテーマである。リスクを早い時期に見抜き、対応することが、リスクマネジメントでは重要である。

日本の製造現場などでは、すでに、この点に重点を置いた「危険予知活動」が広く普及している。作業開始前に危険に関するミーティングを行い、作業にひそむ危険の洗い出しや対処方法の検討、行動目標の策定を行う。

この様な活動を通して、危険に対する感受性を鋭くし、行動の要所での集中力を高め、従業員一人ひとりの危険回避に対する意識を強めることが重要である。

職場では、事故が発生すると直ぐに犯人捜しが始まる・・。 なぜこの様な事故が起きたの・・? と従業員に問い質(ただ)してもなんの反応もない・・。

ルール・罰則をいくら厳しくしても事故は減らない・・。重要なことは、現場の一人ひとりが危険予知センサーの感度を高めることであり、前述の例のように予知に向けた活動を日々繰り返し行い、従業員への定着を図ることが重要である。

管理の目的は、ルールや罰則を作ることではない。作ったら、終わりでもない・・。 定着させるプロセスを考え、実践することである。

冒頭の放火殺人事件も、捜査の進展と共に真実が明らかになっていくだろう・・。犯人だけではなく、店側のリスク回避への対応、監督官庁の指導の在り方等々。

そのためにも、マスコミもこの事件を一過性の報道で終わらせてほしくはない。