トヨタのリコール問題から学ぶもの・・

トヨタのリコール問題は、毎日のようにテレビや新聞等のマスコミに取り上げられている。最初は、欧米でのニュースの様に報じられていたが、ここに来て人気車種「プリウス」のブレーキ問題の発生により、国内でも大きな問題となっている。

この問題を見ていて、対応に次の2点の問題点があったように思う。

1.問題に対する初期対応のまずさ。

プリウスのブレーキに不具合問題が発覚したとき、トヨタの常務が記者会見し、原因は、「運転者の感覚の問題」とトヨタの責任回避ともとれる発言をした。しかし、その後「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の電子制御プログラムを修正した」と云うことが発覚した。

この報道を見ていて思い出すのは、「船場吉兆」の料理使い回し事件と「赤福」の消費期限偽装事件である。船場吉兆は、事件発覚直後平役員が記者会見し、原因は『従業員のパートが勝手にやったこと・・』と原因のすべてを従業員に転嫁した。
これにより、従業員から数々の内部告発があり、船場吉兆は倒産したのである。

一方、赤福は最初の会見でトップが出てきて、『本当に申し訳ない』という姿勢で会社側の責任を認める会見を行い、今でも操業が続いている。

今回のトヨタ船場吉兆も問題を甘く見ていたのではないか・・。クレームの程度により、誰がそれに対し謝罪なり説明をするかによって世論(お客様)の受け止め方が大きく変わると云うことを・・。

船場吉兆は、従業員を敵に回してしまった。トヨタも車のオーナー(運転者)を敵に回すようなことがないよう、今後の対応は慎重にすべきである。

2.品質問題

欧米で発生した、アクセルペダルの不具合による大量リコール問題。車一台は、約2〜3万点の部品から作られているという。今回問題が発生した部品も、その中の一部である。

品質には、どこよりも厳しいトヨタで何故この様な問題が発生したのか、私なりにその原因を考えてみた。

 ?部品の共通化を進めたために、共通部品の品質問題が大量のリコールにつながった。
 ?コストダウンを過度に行ったために、品質を保てなくなった。
 ?部品調達を海外の部品メーカーに切り替えたため、部品の設計・品質が下請け任せとなり、
  自社での品質検査がおろそかになった。
 ?度重なるモデルチェンジで、品質チェック体制が不十分であった。
 ?品質チェックされた共通部品といえども、形が異なる車での品質は十分ではなかった。

海外からは「日本の製品は品質が高い」と高い評価を受けていたが、今回の問題は日本の製造業を代表するトヨタが、信用を大きく失墜させる結果となってしまった・・。

日本の製造業の多くは、コストダウンの要求から製造拠点を人件費の安い中国や東南アジアにシフトしてきた。また、製品の多くも熟練工を必要とする物から、どこでも生産委託可能な「デジタル製品」に変わってきている。

私のいるIT業界でも、20年頃前からソフトウェアの生産を中国へ委託している。理由は、開発コストを下げるためであり、中国は日本の人件費の約1/3である。

20年頃前は、家電品や携帯電話などに組み込まれるソフトウェアの一部だけが中国に生産委託されていた。しかし、ここ数年は基幹系やシステムの中枢部分の大半が中国等の海外で生産されている。

私は、この業界に30年以上いるが、今でも日本のソフトウェアは『未成熟な製造業』と思っている。ソフトウェアのレベルは、欧米から比較すると大きく遅れをとっているのが実情である。

そのような業界が、「人件費が安から・・」と云う理由だけで、システムの中枢部分の生産を中国などへ委託するのは、いかがなものかと思う。

システム開発では、仕様書等の紙やメールなどでは決して伝えることができない、現場での経験・お客様の使用感が重要である。日本で稼働するシステムが、大学を卒業したばかりの中国の「エンジニアの卵」達によって作られている。これで本当に、真の品質は保てるのだろうか・・。

今回発生したトヨタのリコール問題も「風馬牛」と聞き流すのではなく、自社の問題として捉えることが重要である。